Amosapientiam

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英語の発音について概説する

三行説明

  • アメリカ英語の発音について説明するよ!発音とかリスニングの役に立てばいいね!
  • アクセント・シュワー・リンキングや個別の母音・子音についての知識が重要だと思っている(ので幅広く説明する)よ!
  • 個人的に大事だと思っているところから順に説明していくし、大事だと思ってるトピックはなるべく網羅するよ!

目次

前置き

この記事の目的

アメリカ英語(General American、一般米語)の発音について概説します。英国英語やカナダ英語、オーストラリア英語などについては本記事では扱いません。 英語の発音に対する知識を耳学問的に仕入れておくことで、英語の発音やリスニング能力が向上したり、あるいは知識欲が満足したりなどの効用があると良いなあと思って記事を書いています。 自分が発音するときに正しい1発音を知らないと、発音が伝わりにくいのは納得しやすいかもしれません。 それに加えてリスニングするときにも正しい発音を知らないと、自分が聞こえてくるはずだと思っている音と実際に聞こえてくる音とのギャップに苦しむことにもなりそうです。 この記事がそれらで困っている人や、英語の発音に関してさらに知りたい人のためになることを願っています。

本記事は以下の方針で書かれています。

  1. アメリカ英語の発音について、重要かつ初歩的だと思うトピックをこの一記事で網羅する
  2. 個人的に重要だと思っているトピックから先に紹介していく
  3. 書籍やWikipediaへのリンクを貼って、この記事に書かれた話の真偽を確かめられるようにする
  4. 発音記号を使う
  5. 補助的にカタカナも用いる

4番の通り、本記事では発音記号を使います。 英語は綴りと発音の関係が複雑で、綴りのみから発音に対して議論することが難しいです。 そこで発音と表記法の関係がほぼ1対1である、発音記号による慣習的な表記法を使って発音を表していきます。

5番の通り、発音記号を読み慣れない読者や、発音記号上に現れにくい現象の説明のために補助的にカタカナも使用します。しかし本記事のカタカナによる表記法はそこまで精密ではなく、複数の異なる発音を区別できないことがあります。 また英語辞書などでは通常は発音記号を用いて発音2の区別が記載されています。そのため長期的には発音記号を用いた慣習的な表記法を身につけた方がおトクだと思っています。 本記事で書かれたカタカナは、それをそのまま日本語発音したものが英単語の発音であることは意味しておらず、あくまで「なるべく近い日本語の発音にあてはめて、なおかつなるべく一貫したルールで書いた」、なるべくうまく書こうとしたものにすぎないことをご留意ください。

想定読者

英語の発音について興味のある全ての日本語話者を対象にしています。 英語の発音についてカタカナ以上の知識が全くない人でも読めるように記事を書いています。 一方、すでに発音・リスニングの腕前がある人にとっては既知の内容が多いかもしれません。

筆者の英語力について

筆者に英語圏留学などの経験はなく、日常業務でも英会話をする仕事にはついていません。 英語経験は英語で書かれた技術に関するブログや公式ドキュメントなどを日常的に読む程度です。 しかし筆者は英語に言語学的な興味を持っており、英語の発音に関する知識がそこそこあります。

発音

全体的な話と、個別の母音、個別の子音についての話にわけて説明していきます。

全体的な話

個々の母音や個々の子音についてではない話を先にしていきます。

アクセントに関係する現象

アクセントとリズム

英語にはアクセント(ストレス)という概念があります。 日本語(共通語)にもアクセントの概念がありますが、英語と日本語のアクセントは仕組みが異なるので注意が必要です。 英語のアクセントとリズムについて理解するためには、日本語のアクセントとリズムとの違いを知るのが効果的だと思っています。そこで、まず日本語のアクセントとリズムについて説明します。

日本語のアクセントとリズム

日本語は高低アクセントというアクセントシステムを持っており、アクセントのある場所は

  • 高く

発音されます3。 また、日本語はモーラ等時性という性質を持っています。 モーラとは大体ひらがな一文字に対応する発音だと思えばそんなに間違いではありません。 モーラ等時性とは各モーラが同じ長さで発音されるという性質です。 たとえば

  • 「食べる」は「べ」にアクセントがありますが、「た」「べ」「る」は全て同じ長さで発音されます。
  • 「読み始める」は「め」にアクセントがありますが、「よ」「み」「は」「じ」「め」「る」は全て同じ長さで発音されます。

「何を当たり前のことを言っているんだ」と思われましたか?実は英語ではこれは成立しません。

英語のアクセント

日本語と違い、英語には強弱アクセントというアクセントシステムがあります。 英語では、アクセントのある母音は

  • 大きな声で
  • 多くの場合高く
  • 長く

発音されます。

たとえば

  • an apple /ən ˈæpl/ であれば 「アネァーポゥ」と発音され、
  • international /ˌɪn(t)ɚˈnæʃ(ə)nl/ であれば 「イナネァーシュノゥ」などと発音されます。

想定と母音の長さが違ったり、あるいは長い箇所が違ったりして驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「長く」と書きましたが、実はアメリカ英語では同じ母音でも環境によって長かったり短かったり長さが変動し、母音が長いか短いかで単語の意味が変わったりしません。このため、アメリカ英語は長さの概念がない、もしくは長さが一段階しかないと表現されます。(chronemeの項を参照のこと)

しかし「このような場合だったら通常はこのくらい長く・短く発音される」という傾向は確かに存在します。 例えば、pick /pɪk/ ピック の/ɪ/と、peak /pik/ ピークの /i/ は、まず発音されるときの口の構えが必ず異なるのですが、その上で、多くの場合/i/の方が長く発音されます。 一般にはそうなのですが、話し手が pickを強調したい場合 [pɪ:k] 「ピーク」のように長く伸ばして発音されることもあります。母音の発声方法の違いではなく長さだけを聞き分けの根拠にしていた場合、pickとpeakを聞き分けることができなくなってしまいます。ネイティヴにとっては発音されるときの口の構えの違いの方が言い分け・聞き分けに重要なのであり、長さの違いは状況に応じて自然とついてくるものにすぎないのです。

母音の長さはその母音自身の種類や後ろに続く子音の種類によって異なる傾向(母音の章で後述します)があり、またストレス等時性(こちらも後述します)の影響も受けてどんな文を喋っているかでも変わります。

アクセント周りの発音記号

ここで発音記号について軽く説明しておきます。

  • 「'」: その直後の音節にメインのアクセントがあることを意味します。つまり、その直後の音節一つが大きな声で、長く発音されます。
  • 「ˌ」: その直後の音節にサブのアクセントがあることを意味します。その直後の音節一つが大きな声で、長く発音されますが、メインのアクセントほどではありません。
  • かっこ:その中の音は、発音する場合・人もあれば、発音しない場合・人もあるということを表しています。
  • 「:」: 本来であれば「伸ばす音」「長い音」を意味していますが、上述のとおり慣習的な米国英語の発音表記法に関しては母音の長さは重要でないと考えられています。そのため辞書によっては母音にこの記号を書かない辞書もあります。

英語の発音の発音記号による表記法は辞書によっていくつかの流儀があるので、使用している辞書の注意書きなどを読んで記号の意味を判断してください。

英語のリズム (アクセントの等時性)

英語には日本語と違い、アクセントの等時性(ストレス等時性)という等時性があります。 これはアクセントのある母音同士がだいたい一定の間隔で発音されるという性質です。

以下はGettysburg演説の朗読のリンクです。

Colin Powell Reads Gettysburg Address - YouTube

We have come to dedicate a portion of... という文ですが、アクセントのあるところを大文字で書くとwe have COME to DEdicate a PORtion of ...になります。 リズム上は (we have) | COME to | DE di cate a | POR tion of ... というように次のアクセントの手前で区切れます。 | COME to | は二音節なのに対し、 | De di cate a | は四音節もあります。これをだいたい同じ長さで発音するために、アクセントのある音節どうしでもCOMEは比較的長めに、 DEは短めに発音されています。

アクセントのない母音の中和

アクセントのない母音は大きくない声で、短く発音されます。アクセントがある場面では母音は15種類くらいの区別がありますが、アクセントのないところでは区別がだいぶ失われて、多くの場合は次の5つ4の弱い母音のどれかに変化します。5 (母音弱化)

シュワー

/ə/ で表記される音で、「ニュートラルな母音」という表現をよくされます。 力なく口を開けて音を出します。私にとっては、ぼーっとしていて「あなた口開いているよ」と指摘されるときの口の形がだいたいこの形です。 大口を開けて「アー!」と言うでもなく、口を横に引っ張って力を込めて「イー!」と言うでもなく、唇を前に突き出して口をすぼめて力を込めて「ウー!」と言うでもなく、だらんと口を開けたときの構えです。

about /əˈbaʊt/ 「バウト」 obtain /əb'teɪn/ 「アブテイン」 salad /sˈæləd/ 「セァーラッド」 confirm /kənfˈɚm/ 「カンファーム

ハイシュワー

/ɪ/ で表記される音で、「イ」の音に近いのですが、それと比べて口を横に引っ張る力を弱めて発音される音です。「イ」よりの「エ」の音だと思ってもだいたい良さそうです。

naked /'neɪkɪd/ 「ネイキッド」 roses /ˈroʊzɪz/ 「ロウズィズ

r音性母音

/ɚ/で表記される音で、子音のrを母音として発音した音です。辞書によっては/ər/と書いてあることもありますが、これは「シュワーの後にrが来ている」ではなく、2文字でr音性母音一つを表しています。 シュワーと口の構えは似ているのですが、舌の構えがrの構えになります。具体的には、子音のr同様に以下の2通りのいずれかの舌の構えで発音されます。

  • 構え1: 舌先を口内の天井につけないように注意しながら舌を丸めることで、舌と口内の天井の間の空気の通り道を狭める
  • 構え2: 舌先を口内の天井につけないように注意しながら舌の根元を持ち上げて、舌と口内の天井の間の空気の通り道を狭める

grammar /'græmɚ/ 「グレァー」 harbor /'haɚbɚ/ 「ハー

どちらで発音しても良いようなのですが、私は構え2で発音しています。

/i/

口を強く横に引いた「イ」の音です。単語の最後か、すぐ後ろに子音を挟まずに直接母音が続くとき6に現れます。

happy /'hæpi/ 「ヘァー」 react /ri'ækt/ 「エァークト

/jʊ/

/j/ はヤ行の子音を表します。/jʊ/はユです。が、もうちょっと弱くなって/jə/でも発音されえます。

regular /'regjʊlɚ/ 「ギュラ」、 /regjəlɚ/ 「ギャラ」

すぐ後ろに子音を挟まずに直接母音が続くときは、母音が後ろに続くときは、強く口をとがらせる発音(/ju/)になります7

シュワーとハイシュワーの使い分け 

Wikipediaによると、いつシュワーを使い、いつハイシュワーを使うかの使い分けに関しては人によって大きな差があるようで、どちらで発音しても良いケースも中にはあるようです。 たとえばdecimalは /d'esɪml/ 「スィモゥ」とも /d'esəml/ 「サモゥ」とも発音されえます。

Among speakers who make this distinction, the distributions of schwa and [ɪ̈] are quite variable, and in many cases the two are in free variation: the i in decimal, for example, may be pronounced with either sound. https://en.wikipedia.org/wiki/Stress_and_vowel_reduction_in_English#Reduced_vowels_in_the_close_unrounded_area より

さらに、シュワーとハイシュワーの二つを全く区別しないで発音する人も中にはいることはいます。(弱母音合流)

助動詞、前置詞、冠詞などの弱形

名詞・動詞・副詞など(内容語)は通常一箇所以上のアクセントを持ちます。 しかし助動詞・前置詞・冠詞など(機能語)は強調されない場合アクセントを1つも持たないことがあります。 強調されるのは

  • 文の最後にきたとき
  • not とくっついて xxxn't の形になったとき
  • その他に特別そこを強調するだけの理由があるとき
  • etc.

などです。

強調されるときは(おそらく日本人にとって馴染み深い形の)強形、そうでないときはアクセントを一つも持たない形である弱形で発音されます。

単語 強形  弱形(一例)
the 'ði ズィー ðə ザ
a 'eɪ エイ ə ア
an 'æn エァーン ən アン
can 'kæn キャーン 'kən カン
and 'ænd エァーンド ən(d) アン(ド)
for 'fɔɚ フォア fɚ ファ
of 'ɒv アーヴ əv アヴ

なぜかtheの強形「ズィー」と弱形「ザ」の違いだけが日本だと有名な気がします。

canの強形と弱形の区別はcanとcan't を聞き分けるときに結構手がかりになります。

"I can do it." は通常 /aɪ kən 'du ɪt/ 「アイ カン ドゥー イット」と発音され "I can't do it." は /aɪ 'kænt 'du ɪt/ 「アイ キャン ドゥー イット」と発音されます。

母音のないところに母音を付け足さない

日本語では多くの場合8子音の後に母音が続きます。

  • 「高ければ」 /ta ka ke re ba/
  • 鎌倉幕府」 /ka ma ku ra ba ku fu/

これに対し、英語では子音の後に母音が続かないことがあります。

  • kick /'kɪk/
  • cat /'kæt/
  • jump /'dʒʌmp/

上は全て母音が一つだけからなる単語、すなわち一音節の単語です。 これを /kɪk ku/ /kæt tu/ /dʒʌm pu/のように母音を入れないように注意しましょう。

自分の発音に母音が入っていないこと、自然な口の構えになっていることを確かめるのは難しいですが、上記のような無声子音で終わる単語の場合は、声帯の振動に着目することで「母音が確実に入ってしまっている」間違いを検出することはできます。

首を締めるときの手の形で、自分の喉元に手をあててください。

  • そのまま「あーいーうーえーおー」と言ってください。そうすると、声帯がビリビリ振動するのが手に伝わってくるかとおもいます。これが1. 通常の母音を発音している状態です。
  • 次に手を当てたまま何も喋らないでいてください。声帯は振動していませんね?これは2. 母音を発していない状態です。
  • 最後に手を当てたままひそひそ声で「あーいーうーえーおー」と言ってください。喋っているのに声帯が振動していません。これは3. 無声化した母音を発音している状態です。

喉に手をあてたままcatを発音してみて、 tの後に声帯が振動していたら1の状態になってしまっているので明らかな間違いです。jumpやkickに関しても同様です。

声帯の振動については以上の通りです。あとは子音を発音し終わったあと、子音に続いて自然な口の形であれば問題ありません。

日本語の母音の無声化

ところで、日本語では地域や年齢、人によって「母音の無声化」という現象が起きたり起きなかったりします。 これは見た目上は前セクションの1の母音があるように見えるところが、実際は3や2で発音されるという現象です。 NHKのアナウンサーの発音などを聞くと、「〜です」は /des/ 、「ですか?」は/deska/ 、「でした」は /deʃta/ のように、実は日本語でも母音がない状態で発音していることが多々あります。9 自分の喉に手を当ててみて「そうです」「そうですか?」「そうでした」を発音してみてサ行のところで声帯が振動していない人は、その感覚を応用するとひょっとすると掴みが早いかもしれません。

母音の無声化現象が起こる方は

  • ski /'ski/
  • kiss /'kɪs/
  • guest /'gest/

などを発音するのにそれほど苦労しないかもしれません。

リンキング

言語によって異なるのですが、英語では「1つ目の単語の最後が子音で終わる」かつ「2つ目の単語の最初が母音(か半母音yなど)で始まる」ときに、2つの音が繋がって発音されます。

check it! /'tʃek ɪt/ なら「チェック イット」ではなく 「チェ キット」10

a kind of /ə 'kaɪnd əv/ なら 「ア カインド アヴ」ではなく「ア カイン ダヴ」 an apple /ən ˈæpl/ なら「アン エァーポゥ」ではなく、「ア ネァーポゥ」

のように発音されます。

開放させない子音

まず破裂音閉鎖開放について説明します。 破裂音とは、英語においては「p, b, t, d, k, g」などの子音です。これらは口の入り口or中のどこかを一瞬塞いで息をせき止め、再び開けた時に出る「ポンッ」という音を利用した子音です。 発音してみるとp, bとt, dはどこをせき止めているかわかりやすいのではないでしょうか?k, gは口の奥の方なので少し自覚しにくいかもしれません。 閉鎖とはせきとめることで、開放とはせき止めている状態を開き、「ポンッ」という音を出すことです。

米英語では後に母音が続かない破裂音開放させないことがしばしばあります。catのtは必ず舌を口内の天井に押し当てて空気を塞きとめるところまではしなければなりません。 しかし、その後に開放させて「ポンッ」という音を出すかどうかは自由です。 破裂音の子音を開放させない場合があるということを知ることで、私はリスニングで「書かれているはずの子音が聞こえない」という悩みがだいぶ楽になりました。 私は開放を聞き取ろうとしていました。それに対して音声は閉鎖はしっかり発音されているのですが開放がされていないケースだったのです。

閉鎖は必ずすること

一方で、自分で発音するときに閉鎖をサボらないように注意してください。 beeとbeatは違う発音です。 beeの後には子音は来ませんが、 beatの最後には必ずtの閉鎖の音が必要です。開放はしてもしなくてもどちらでもよいです。

綴り上で同じ子音字が二つ続いた場合は「ッ」ではない

これは正確には発音上の問題ではなく綴り字上の問題なのですが、たまに誤解している人がいるので明記しておきます。 英語には apple, cutter, shutter, topping, pepperなど同じ文字を重ねて書く単語がそれなりにあります。英語では同じ文字を重ねることは、その子音が長く発音される=「ッ」の発音が入ることを意味しません。 現代英語においては、子音を2つ重ねてかくことは直前の母音が後述する「短い」母音であることなどの印です。英語では母音字で綴っても複数の読み方があるので、そのうちどの読み方かを指定するために二重に子音が書かれることがあります。nn、mmなども同様です。

単語 英語としては間違いの発音 発音例
apple エァッポゥ エァーポゥ
cutter カッタ カラ
shutter シャッタ シャラ
pepper ペッパ ペパ
runner ランナ ラナ
hammer ハンマ ヘァーマ

母音

アクセントのない部分の母音はすでに説明したので、このセクションではアクセントのある部位に現れる母音を説明します。 注意点ですが、英語においては「短いa」「長いa」のように、「短いx」「 長いx」というように母音を呼ぶことがありますが、名前に反して必ずしも母音の長さと一致しません。 現代アメリカ英語においては、ただ単に数多くの母音を呼び分けるためにそういう名前が付いているだけと理解しても問題ないくらいです。

母音の長さについて

繰り返しますが、アメリカ英語においては母音の長さは単語の違いを聞き分ける決め手ではないとみなされています。母音の違いは、長さではなく、口の構えが異なることによって違う音が出てくることにより区別されると説明されることが多いです。 それを踏まえた上で、一般的に「こういう場合は通常は長い」とか、「こういう場合は通常は短い」という傾向はあります。

The duration of American-English vowels: an overviewによると、母音の長さに関して以下のような傾向があります。

  • アクセントのある母音はアクセントのない母音より長い
  • 以下の母音一覧に記載した通りに、母音によって長さの傾向の違いがある

さらに、一般に子音に関して以下の傾向があります。

  • 音節が子音で終わらない方が、音節が子音で終わるときよりも母音が長い
  • 音節が有声子音で終わる方が、音節が無声子音で終わるときよりも母音が長い

この上、前述したアクセントの等時性の影響も絡みます。

一覧

アメリカ英語のアクセントのある位置に現れる母音の種類の数え方は様々ありますが、 Lisa Mojsin, M.A. の「Mastering the American Accent」に概ねしたがって、ここでは15母音に分けて考えることにします。

下では発音をカタカナで説明しますが、カタカナによる説明には限度がありますので辞書などで実際の発音を耳で聞いて確かめてください。

発音記号 英語での呼び方 単語 一般的な長さ 発音の説明
/i/ 長いe meet, read 長め 口を横に強く引いて「イー」
/ɪ/ 短いi kick, hit 短め 「イ」に近い「エ」。 *「イ」から口をだんだん開いて行くと「エ」になるので、それで練習してもよさそう?
/eɪ/ 長いa take, eight, wait 長め 「エイ」。「エー」にならないように注意する
/e/ 短いe bed, head, said 短め 「エ」
/æ/ 短いa cat, apple 長め 「エ」と「ア」の中間くらいで「エァー」。 *「エ」から口を最大限開いていくと「ア」になるので、その中間
/ɑ/ 短いo hot, want, calm, (arm・heartの前半) 長め 口を大きく開けて「アー」という
/ʌ/ 短いu jump, come, love 短め 口を中途半端に開けて「ア」。シュワーの説明とだいたい同じ
/ɔ/ - all, draw, author, thought 長め 大きめに口を開けて「オー」。 /ɑ/ と全く区別しないネイティヴも多数いるので大きく開けて「アー」でも問題ない
/oʊ/ 長いo go, home, slow 長め 「オウ」。「オー」にならないように注意する
/ʊ/ 短いoo foot, look, full, wolf 短め 唇を丸めるのだけれど、あまり狭めずに音を出す。 説明しにくい...
/u/ 長いu, 長いoo blue, cute, cool, soup, move 長め 唇を丸めて、強く狭めて突き出して「ウー」
/ɚ/ r音性母音 bird, early, turn, work 長め r音性母音のセクションで説明済み
/aɪ/ - time 長い 「アイ」
/aʊ/ - cow, mouse 長い 「アウ」
/ɔɪ/ - oil, toy 長い 「オイ」

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混同しやすい気がしている母音

以下の母音はうっかり同じ発音で発音してしまいがちですが、異なる母音です。上の説明を読み、音をしっかり聞いて発音しわける必要があります。

  • /i/と/ɪ/: heat, hit
  • /u/と/ʊ/: food, foot
  • /æ/と/ɑ/と/ʌ/: hat, hot, hut
  • /ɚ/と/ɑɚ/: hurt, heart

子音

子音も Lisa Mojsin, M.A. の「Mastering the American Accent」の分類にしたがって分類することにします。

多くの子音には有声子音と無声子音のペアの概念があります。 まったく同じ口の形、舌の構えで、声帯を振動させるか振動させないかだけの違いです。

一覧

無声子音 無声子音の単語例 有声子音 有声子音の単語例
/p/ pipe /b/ bike
/t/ tight /d/ dad
/k/ kick /g/ gag
/f/ fan /v/ violin
/θ/ both /ð/ with
/s/ sea /z/ zoo
/ʃ/ shy, pressure /ʒ/ pleasure, garage
/tʃ/ chocolate /dʒ/ jump, message
/m/ mime
/n/ nine
/ŋ/ king
/l/ light, feel
/r/ right, fear
/w/ water, white, quick, wood
/y/ yes, year
/h/ head

注意が必要な子音たち

多くの子音は直感通りの発音だと思います。いくつか注意を要するものがあるので上から順番にそこだけ確認します。

/t/

ご存知の方も多いと思いますが、tはアメリカ英語においてかなりトリッキーな振る舞いをします。

一つの単語の中で、アクセントのある母音の直前にあるとき

例) type, attack, tick

概ね日本語の「タ」の子音と同じです。

上のケースを除いて、母音に挟まれているとき

例) water, get out, battle

高い頻度で「flap t」という音になり、ラ行の音に聞こえやすいです。

tは通常は「破裂音」です。 舌を口の天井(歯茎の肉のあたり)にしっかりつけて空気をしっかりせき止めたのち、開放させるときに出る「ポンッ」と言う音の子音です。 これと非常に似た音の作り方なのですが、舌を口の天井に叩きつけてすぐ離す、すなわち舌で天井を叩くとflap tの発音になります。

実は日本語の「からあげ」の「ら」の子音はflap tとほぼ同じ音で発音する人が多いです。「からあげ」と言ってみて、上の説明の通りに発音しているようであれば、その音を利用して発音しても問題なさそうです。

この現象の結果

  • water: ワーラ
  • get out: ゲラウト
  • battle: ベァーロゥ

というように聞こえます。 最後の例は母音ではなくlで終わっていますが、英語で/l/で終わる英単語の場合、このlを音節主音的子音のlと言い、lが母音のような役割を果たしています。

余談:Check it out! が「チェケラウッ!」に聞こえる理由

ここまでにした諸現象の説明で、どうして Check it out! /tʃek ɪt aʊt/ が「チェケラウッ!」に聞こえるのかが大まかに理解できるはずです。

  • まずcheckの/k/ と itの/ɪ/、それとitの/t/とout /aʊt/がリンキングで繋がり、 /tʃe kɪ taʊt/ のようになります。
  • ここで/ɪ/はエ段よりに聞こえます。したがって、/kɪ/は「ケ」っぽく聞こえます。
  • /taʊt/のtはflap tで発音されると「ラ」に聞こえます。
  • 最後に、一番最後のtを閉鎖だけして開放しないと、日本語話者の耳にはタ行音があるようには聞こえづらくなります。

全体を通して「チェケラウッ!」のように聞こえる可能性がでてきます。

余談2: dについて

/d/も同じ環境でflap t になります。この場合、latterとladderは区別なく発音されたり、母音の長さに微妙な違いを持たせて発音されたりします。

/tn/で単語が終わるとき

例) button, cotton, written, eaten

「ッン」のような音になることがあります。

復習しますが、単体のtは舌を口の天井にしっかりつけて空気をしっかりせき止めたのち、開放させるときの「ポンッ」と言う音の子音でした。 ところで、単体nは舌を口の天井にしっかりつけて、鼻から空気を抜いて発音する子音です。

よく見るとtとnの間で舌の位置が同じです。アメリカ英語ではtとnを、舌を口の天井から離すことなく連続して発音します。 具体的には舌を口の天井につけると同時に声門を閉じ、息を吐くのを一瞬せき止めます。 次に舌を口の天井から離さないまま鼻に空気を抜き、nの音を発音します。

これにより、

  • button, cotton, written, eatenはそれぞれ「バッンー」「カーッンー」「リッンー」「イーッンー」のような音で発音されます。 「バタン」「カータン」「リタン」「イータン」みたいな音を想像しているとだいぶ異なるので、知らないと気づきにくいです。
/nt/ の並びのとき

多くの場合tはnで発音されます。(「tは省略される」と表現されることもあります)

center /'sen(t)ɚ/ は「セナー」、Toronto /tə'rɑn(t)oʊ/は「タラーノウ」のように発音されます。

(自分語りですが、Torontoを「トロント」だとカタカナで覚えていた時分は、Torontoが何回聞いても聞き取れなくて恥ずかしい思いをしたことがあります...)

/f/と/v/と/b/

/f/は摩擦音に分類され、上と下の二箇所で狭い隙間を作って、そこから息を吹き漏らすことで発音されます。

日本語のファ行との違いを説明するため、先に日本語のファ行の発音の仕方を説明します。 日本語のファ行も 摩擦音ですが

  • 上:上唇
  • 下:下唇 で狭めを作って、その間から空気を漏らす音で発音されることが多いです。

一方英語の/f/音は、

  • 上: 上の歯
  • 下: 下唇

を用います。この二つを近づけて、間から空気を漏らすとfの音が発音できます。

摩擦音は息の続く限り、同じ子音をいくらでも長く発音できるという特徴があります。

ffffffffffffffffffffffffffffffffffffffff っと発音できるでしょうか?多分簡単にできると思います。

/v/はこのfの音に声帯の振動を加えた音です。 ffffffffffffffffffffffffffffっと発音している最中に声を出して音程をつけてみてください。それがvの音です。

fffffffffvvvvvvvvvvffffffffvvvvvというように、vの音も長く引っ張れるはずです。

これに対して、/b/は破裂音 に分類され、 唇を閉じ空気をせき止めてから、それを開放して出る「ボン」という音の子音です。 閉じて開ける瞬間の音なので、これは長く発音し続けることができません。 /v/と/b/では発音の仕方が全く異なることがわかると思います。

th (/θ/ と/ð/) と /s/ /z/

thで表される音は/f/、/v/同様摩擦音です。

狭めは

  • 上: 上の歯
  • 下: 舌

で作ります。上の歯を舌に近づけ、その隙間から空気を出す音です。

/θ/は無声、/ð/は有声です。 /f/のときと同様に θθθθθθθθθθθθððððððððððððθθθθθθθθθθðððððððと発音してみると感覚が掴みやすいと思われます。

一方、摩擦音/s/ /z/は

  • 上: 口の中の天井(歯茎の裏あたり)
  • 下:舌

で作ります。 thよりももうちょっと上側・奥側です。

日本語のサ行は多くの場合英語の/s/と同じ方法で発音されますが、中には/θ/で発音する方も耳で聞いた限りだといらっしゃるように思われます。自分がどちらで発音しがちなのか認識しておくと訓練する上で役にたつかもしれません。

/z/ と/dz/ と/ʒ/ と/dʒ/

摩擦音と破擦音の区別があります。 上で説明したやり方は摩擦音を作る方法ですが、最初に閉鎖を作った状態から連続して摩擦音を発音すると 破擦音 になります。 日本語で「ザ」を単体で発音したときには 摩擦音 より 破擦音になりやすいです。 英語では一応 摩擦音破擦音の区別がありますので、知っておいても損はないと思います。

語末のn

日本語では単語の最後の「ン」は必ずしも閉鎖を作りません。 しかし、英語で/n/で終わる時は必ず閉鎖を作って鼻から空気を出します。

閉鎖位置はtと同じく、

  • 上:歯茎の裏あたり
  • 下:舌

の二つをくっつけます。

an appleが「アン エァーポウ」にならないように気をつけてください。

l

舌の中央を口の中の天井(歯茎の肉のあたり)にべったりくっつけて、中央をくっつけたまま両脇から空気を通して「うー」っと音を出します。これがlの音です。

音節主音的なl

l は環境によって単独で音節を形成することがあります。 hill, kill などは一音節ですが、oil, healはoi-l hea-l のように二音節に聞こえることがあります。

r

r音性母音で説明したのとほぼ同じですが、唇を丸めて発音してください。

wh

古い発音では/hw/のような音で発音されましたが、標準的なアメリカ英語ではwで書かれた場合とwhで書かれた場合は全く同じ発音です。

  • whineは wineのように、
  • whalesはWalesのように発音します。

/wʊ/ woo, /ji/ yee

wood, yearなどで現れる音です。 難しい音ですが、より尖った方向から少しゆるい方向に音を変化させます。

wooは極端に唇を丸めて突き出した状態から、少し唇の丸め・すぼませを緩めた状態に変化させます。 yeeは極端に唇を横に引いて舌が歯茎の裏あたりに近づいている状態から、少し唇の引きを緩め、舌を下げた状態にさせます。

おすすめ発音教材

東京大学教養学部英語部会が作成した教材「英語の発音と発音記号」という資料に個々の子音と母音の音声ががかなり詳しく載っています。無料で閲覧できる上、かなり有益なので私から皆様におすすめします。

park.itc.u-tokyo.ac.jp

終わりに

以上でこの記事の話はおしまいです。 とりあえず知っておくと良さそうだと思った知識は網羅しました。 スコープを少し広げると、複合語のアクセントやイントネーションの話などに繋がっていくかもしれません。しかし、この記事ではそこまでは解説しません。 意見やdiscussionなどがあればコメント欄にお書き頂けると幸いです!

この記事が皆様の英語ライフのよき友になりますように!

ゆーちき

参考文献

上ほど英語学習的な本で、下ほど言語学的な本です。

  • CAMBRIDGE 『Clear Speach』 Judy B. Gilbert
  • Barron's 『Mastering the American Accent』 Lisa Mojsin, M.A.
  • 大修館書店 『新装版 英語音声学入門』 竹林滋・斎藤弘子共著
  • 三省堂 『ビジュアル音声学』川原繁人
  • 大修館書店 『実践音声学入門』 J.C.キャットフォード著 竹林滋・設楽優子・内田洋子著
  • 文庫クセジュ 『音声の科学-音声学入門』 ジャクリーヌ・ヴェシエール著 中田俊介/川口裕司/神山剛樹訳
  • Thomas H. Crystal, Arthur S. House, The duration of American-English vowels: an overview, Journal of Phonetics, Volume 16, Issue 3, 1988, Pages 263-284, ISSN 0095-4470,

  1. ここでは「みんなが理解しやすい」「ネイティヴがその方法で発音しがちな」程度の意味で「正しい」と書いています。

  2. 正確には音素

  3. 「アクセントのある場所は高く発音される」 とよく表現されますが、「アクセントのある場所以降から音高が下がり始める」の方が正確な表現かもしれません。

  4. 5つに分ける方法は大修館書店『新装版 英語音声学入門』の分類に従った。この本の整理の仕方では、この5つの母音以外が現れる音節は多少なりとも強勢を受けているのでアクセントのない音節ではないと分類している。

  5. 細かい話をすると、ここであげている5つの弱母音は前後の環境によってだいぶ音が変わりえます。下であげているのは代表的な例というか、中心的な発音にすぎず、もっと広い音で発音されたり、狭い音で発音されたりなどします。

  6. 母音が後ろに続くときは、むしろハイシュワーのvariationの一つと考えた方がわかりやすいかもしれません。

  7. 概念的な話ですが、/jʊ/と/ju/は音素表記で書き分けましたが、弱母音という環境においてuとʊは果たして別音素と言えるのでしょうか?言ってもしょうがない気がしています。が、ハイシュワーと/i/の説明と整合する形で書くのが難しい…

  8. 高かった /ta ka kat ta/ とか、盛んだ /sa kan da/ とか、 沢山 [taksan] とか、マージナルなケースはいくらでもあります。

  9. NHK日本語発音アクセント新辞典」では、共通語においてどういう場合に無声化が起き、どういう場合に起きないかの規則が詳細に記されています。

  10. ここを「キ」で書くのは個人的に結構気持ち悪かったりします。母音の違いもありますが、日本語の「キ」は割と口蓋化した音なのに対し、英語の/kɪ/はあまり口蓋化していないという違いがあるからです。

  11. 他のよくある母音の分け方の流儀としては、「母音+r音性母音」の並びをそれぞれ独立の母音と数えて他に数種類増やして数える方法もある。

  12. 表中で説明した通り、/ɔ/ は/ɑ/と全く同じに発音する人・地域も多い。(cot-caught merger)