概要
東京方言話者の単語音声におけるおそ下がりの生起条件の調査 北村 達也・天川 雄太・波多野博顕**
によると、基本周波数の下がり目がアクセント核の次の音節の中にくる現象があるらしい。 これが実際どこら辺にくるのか、自分含め 友人たちの発話を聞いて分析してみた。
測定基準
音程の下がり始めがどのくらいオーバーしているかを測定したい。 ここでは「遅下がり度」を(「アクセント核の次の音節核の中でピッチが下降を始めるまでの時間」/「アクセント核の次の音節全体の長さ」%)と定義する。
方法
Praat というアプリで分析する。このアプリは発話音声を入力すると波形とスペクトログラムを出力してくれるツールだ。 音声を聞いたりスペクトログラムを見ながら、以下の語彙について、私が必要な区間の時間的長さを測定し、遅下がり度を測定する。
語彙リスト
- 努力
- 始末
- とにかく
- 文学
- 粗末
発話を自然環境に近づけるため、以下のフレーズで読み上げを行った。
- 努力しなくちゃ
- 始末しなくちゃ
- とにかくやんなきゃ
- 文学読まなきゃ
- 粗末にしちゃ
読み上げは3回行い平均を取った。
実験参加者
僕の知人から協力者を集め、近畿中央部の A 氏、近畿最西端部のB氏、北関東の私の3人で実験を行った。共通語を話しているつもりで発話するようにという条件のもとに録音した。
遅下がり度の結果
単語 | A氏 | B氏 | 私 | 3人の平均 |
---|---|---|---|---|
努力 | 11.2% | 35.5% | 48.9% | 31.9% |
文学 | 23.7% | 48.4% | 58.7% | 43.6% |
粗末 | 28.3% | 25.9% | 88.6% | 47.6% |
とにかく | 41.8% | 53.1% | 60.3% | 51.7% |
始末 | 63.2% | 34.1% | 82.4% | 59.9% |
話者の平均 | 33.6% | 39.4% | 67.8% | 46.9% |
漠然と思ったこと
思ったより遅下がりしている
どの人のどの単語も、3回平均が正の値を取っている。 特に私の「粗末」はアクセント核の次の音節の88.6% も過ぎてからやっと下降を始めているらしい。
近畿中央部から離れれば離れた話者ほど遅下がりが強い傾向にある?
A氏は近畿中央、B氏は近畿外延部、私は関東出身だ。この昇順に遅下がりの度合いが大きくなっていっている。
もっと周縁部によればよるほど遅下がりが強くなっていたらこの傾向があるかどうか検討してみる価値が上がりそうだ。 試しに、東京の人と話しているときのつもりの録音と、東京よりさらに近畿から東北方面に近い北関東の親戚(ギリギリ東京式アクセントとされている地域で、無アクセント地域と隣接している)と話しているときの気持ちで録音し、聞き比べてみた。
東京っぽい気持ちのとき
北関東っぽい気持ちのとき
比較結果の感想
やはり北関東の時の方が遅下がりの度合いが大きい気がする。気になる。 とはいえ、さすがに3人だけの調査じゃ何も確定的なことを言いようがない。
「とにかく」の遅下がり度が比較的高い?
東京方言話者の単語音声におけるおそ下がりの生起条件の調査 北村 達也・天川 雄太・波多野博顕** のアブストにある、語に含まれるモーラ数が多いほど遅下がりが現れやすいという話と同じ方向を向いていそう。
私の発話で「粗末」「始末」の遅下がり度が高い
首都圏方言では以下の条件で音節の無声化が起こるとされている。
- 無声子音から始まり
- 狭母音で
- 次の音節が無声子音で始まる
「始末」はこの条件を部分的に満たしているので、無声化が起こる環境に近い環境であるかと思われる。 さらに、古い東京方言では、アクセント核が無声化すると、アクセントが後ろにずれることがあると言われている。(出典を見つけられない...)
ここら辺が作用してるのかな...わからないな...
まとめ
アクセントの音程のピークはたしかにアクセント核の中じゃないことがあった。 実際に耳で聞いた感じと、分析して確認したピークの位置は割とずれることがある。