Amosapientiam

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ITエンジニアの私が私生活タスク管理をJIRAで初めてよかったこと

概要

私生活で思いついた「あれやりたい」「これやりたい」のタスク管理を JIRAで行うようにしたら便利だったので事例共有したい。

きっかけ

日常で「あれやりたいな」「あれを作りたいな」「あのタスクいつまでに終わらせときたいな」みたいなものを思いつくことがよくある。しかし往々にしてそれはいつの間にか忘れてしまう。 チャットツールに書けば流れて行ってしまうし、ノートやファイルに書いても分散してしまって見逃しがちだった。 かといって、それを頑張って忘れないように頭の中に常に残しておくのは心理的な負荷がかかる。そこで、思いついたやりたいことを一元的に書き出しとく場所がほしかった。

JIRAとは

IT系でよく使われているタスク管理ツール。

僕のプライベートでの使い方

一つのJIRAアカウントの中に、「勉強系」JIRAボードと、「生活系」JIRAボードを作成している。

チケット作成

日常で思いついた「あれやりたいな」とか「あれ作りたいな」「あれやらなくちゃ」とかを思いついた時点で、すぐにJIRAの「バックログ」にチケットを作成してしまう。 チケットは1週間以内に終わるような単位に、できれば1日程度で終わる単位まで分割して作成する。 分割したチケットを束ねたい場合は「ストーリー」を作成し、そのストーリーに分割したチケットたちを紐づける。

次スプリントでやるタスクの厳選

スプリントとは振り返りまでの一定期間のことだと思ってもらって大体いい。私はスプリントの長さを1週間にして、1週間ごとに振り返りと進捗整理をしている。 毎週決まった曜日の決まった時間にスプリント確認時間を設けて、そこで振り返りとタスク整理をする。

バックログ画面の「スプリントを作成」ボタンを押し、今週やり切れる分のチケットを厳選して、新規作成したスプリントに移動する。

以下は自分の「勉強系」JIRA ボードの画像だ。

スプリントを作成

スプリントの期間を1週間に定めて、「スプリントを開始」ボタンを押す。

スプリント中

スプリントにはレーンがいくつかあるが、私は「TODO」「進行中」「レビュー中」「完了」の4つにしている。 私はひまなときにチケットを振り返る時間を設けているので「レビュー中」を設けて、確認しだい「完了」にする運用にしているが、別に「TODO」「進行中」「完了」の3つでも問題ないと思う。

最初チケットは「TODO」にあるので、やり始めたら「進行中」に移動する。終わったら「レビュー中」に移動している。

スプリント確認会

毎週定例の確認会の時間になったらボードを確認し、どれを終えたか、どのくらい計画とズレがあったかなどを振り返りつつ、スプリントを完了する。 前スプリントのチケット消化具合を勘案しながら、次スプリントに乗せるチケットを厳選する。

よかったこと

  • 冒頭で述べたが、やりたかったことをいつの間にか忘れないで済むし、頑張って頭の片隅に残し続ける負荷も減らせた
  • 毎週チケットの消化具合が可視化されるので、どのくらいのペースで自分が私事を消化できるかがつかみやすくなった。たとえば、毎スプリントでチケットのやり残しが発生していたら自分の処理能力を過剰に見積もっていることがわかる。また、長期的な計画をする際に、このくらい前から準備をすればうまく回りそうだと計画が立てやすくなった
  • どのチケットをスプリントに乗せるかを厳選する時間が発生するので、やることの優先順位付けがしっかりできる。

私生活JIRA管理を人々にお勧めできるか

一概にそうとは言えないかもしれない。管理のために発生するコストはまあまあ大きいし、こういうところに掛けるコストが負担になる人はいるだろうし、何より私生活を明文化して管理すること自体に価値感情の忌避感を持つ方もいらっしゃるかもしれない。ただ、私にはうまくハマった。

まとめ

私生活上のやるべきことをJIRAで管理するようになったら便利だったので、事例を紹介した。参考になったら幸いだ。

情報提供のブログ記事を書くときに私が避けていることのリスト

概要

本記事は情報提供を目的としたブログ記事を気合を入れて書くときに、私が避けている点を集めた tips 集だ。 読者のブログ執筆の助けになれば幸いだ。

最後の仕上げとして記事のテーマを決めない

記事を書き始める前には、自分が何のために何の情報を伝達したいのかしっかり決めなければならない。 私はITエンジニアなのでプログラミングの比喩を挟むのだが、プログラミングではプログラムが満たすべき仕様とそれをどう実現するかの詳細である実装はしばしば別物と捉えられる。 仕様がなければどんな実装が目的を満たしているのか判断することすらできない。つまり、実装のゴールや正解がどこにあるのか分からない。実装に先立ち仕様が決まっているべきなのである。

文章執筆もこれに似ていると私は捉える。文章のテーマ・文章によって達成したい目的は仕様であり、それを満たす実装として本文を書くのだ。仕様が決まって初めて本文が推敲できる。 自分の書いた文章によって目的は達成できるのか。不足している文はないか。目的達成に寄与していない不要な文を書いていないか。文章を完成させるためにはまず「完成」の定義を最初に決めなければならない。

直線的なトピックの羅列として捉えない

伝えたいテーマの下にその根拠が5、6個雑然と並んでいる状況を考える。この5、6個が本当に並列ならこう書くしか仕方がないかもしれない。だがたいていの場合は違う構造が隠れているのではないか。

たとえば、次のような文章を考える。

西の町が雨だ。ここでは偏西風が吹いている。天気は西から東に変わる。ここの雲が厚くなってきた。厚い雲は雨の前兆である。傘を持って行った方がいい。

この文章は十分短いので理解は容易だろうが、この調子で1ページも2ページも書かれたら文章の全体像をつかむのは難しくなる。 ではどうすればいいのか。文章をトピックの羅列ではなく、大きいトピックが順に順に小さいトピックとして細かく枝分かれしていく構造(しばしば「木構造」と呼ばれる)*1で考える。 上の文章に対しては以下のような木が組み立てられる。*2

この木の枝分かれ部分構造も一緒に言語化して、構造をくどいくらいに際立たせると以下のようになる。

傘を持っていくべきだ。なぜならば雨が降りそうだからだ。根拠は2つある。まず一つ目の根拠。一般に天気は西から東に変わる。これは偏西風の影響だ。そして今、西の町は雨だ。したがってここもじきに雨になる。次に2つ目の根拠。一般に雲が厚くなってくるのは雨の前兆だ。ここら辺の雲が厚くなってきたので、これも雨が降りそうな理由だ。以上から、傘を持っていくべきだと結論する。

どのくらいくどく書くかはスタイルによると思うのだが、私は文章の構造を明徴にするためならくどく書きがちだ。

このスタイルがあまり当てはまらない文書もある。例として、今回の記事は tips 集のようなものなのであまり木構造で考えておらず、リスト形式で大枠を作っている。

先頭から順に書き始めない

上の木構造を仮定した場合、先頭から順に文章を書き始めると、木の大元に近い重要度の大きい話と木の末端に近い重要度の小さい話を激しく行き来しながら執筆することになる。 私はこの書き方をすると全体の構造を見失ってしまい文章の目的を合致する構成が作りづらい。

その代わり私は先頭から順に木構造でアウトラインを書く。なるべく重要度の高いトップの項目を書き、それをより細かい項目に分け、さらに細かく分け... みたいな要領である。

markdownであったら # の行を最初に書き、全体の構成が変でないか眺め、 # の中の ## の行を書き # の主張を補強できているか眺め、それから地の文を書き始める... といった具合だ。

結論を最後だけに書くない

結論がわからないまま話を進めると、読者はどこに連れていかれるかわからない状態が長くなって話の骨格(木構造)を見失いがちになる。なのでゴールを最初に示す意味で各枝分かれ部分の 結論・要約はセクションの最初に書く 。

黙読だけで済ませない

私の経験だが、声に出して読み上げてみるとリズムがおかしいところ、文がまどろっこしいところ、誤字脱字などに気づきやすい。なので、積極的に 音読 している。

まとめ

情報提供を目的としたブログを書くにあたって私が気を付けていることの tips を紹介した。肯定形で書き直すと以下のとおりである。

  • 文章のテーマ・目的は最初に決める
  • 文章を木構造で捉える
  • ノードの構造を根本から順に書き始める
  • 結論を最初に書く
  • 音読して確かめる

もちろんこの書き方が馴染まないであろう分野もある。たとえば随筆や日記などに対してこういう書き方が straightforward に適用できるような気はあまりしない。読者のみなさんがブログ記事作成の上で気を付けていることがあったらコメントで共有してほしい。

*1:プログラミングができる人は、これを代数的データ型だと考えてもよいかもしれない。各ノードがどんな種類で、どんな子供を持てるかは決まっている

*2:実世界の木とは上下が逆であることに注意してほしい。上が根元で、下に行くほど枝分かれしていて、一番先に行き止まりの「葉」がある。

昔の東京の浪曲に見る非現代共通語的な特徴

まえがき

みなさんは浪曲という話芸ジャンルをご存じだろうか。浪曲は明治の維新以降に流行った話芸ジャンルであり、語りと歌うようなパートが交互にある芸能である。おおむね以下のような特徴を持つ。

  • 落語・講談と並んで3大話芸の一つ
  • 身振りや服装の芝居は通常大きくなく、基本的には話芸である
  • ボイスドラマであり、何らかの武勇伝などが語られる
  • 伴奏に合わせて一人が複数役を演じ分ける
  • 感情の昂る場面なので歌うような喋りが挟まる
  • 大衆に近い芸能であり、極めて(伝統)口語的なセリフ回しが多用される

自分も浪曲CDを数枚所持していてよく聴いている。その芝居に現代的な首都圏方言的、あるいは現代共通語的ではない特徴がよく表れている。

そのうちいくつかを紹介する。

聴いたCD についての説明

聞いたCD

株式会社コスミック出版発行の「8枚組 浪曲CD 広沢虎造 第一集 清水次郎長伝 一」である。 パッケージによると、テイチクエンタテインメントから発売されていた、昭和28年収録の音源らしい。 今回は最初の10分間について聞いた。

浪曲師について

時期的に広沢虎造(2代目)である。 東京都(現)港区白金の出身らしい。 関西で修業を積んだ上、東京に戻ってきて活躍している。

話の内容について

静岡の幕末の博徒たちのエピソードである。この話は長くなるので詳しくは立ち入らない。

非現代東京方言的な特徴

全てセリフパートから拾っており、歌いパートからは用例を取らない。

語彙的な特徴

2:00 神仏を祈って

現代共通語なら「神仏祈って」だろう。 weblio古語辞典では古語では「を」で取るらしい。 祈るの意味 - 古文辞書 - Weblio古語辞典

2:05 朝飯(あさはん)

現代共通語では「あさめし」もしくは「あさごはん」

2:30 胴上げ\にして

ここに「に」は現代だと入りずらそう

5:40 てやんでい

江戸っ子言葉としてよく言及される。

8:50 勘弁してくんねえ

勘弁してくださいの意味。この以来の語尾「ねえ」「ない」については、シブがき隊の歌「スシ食いねェ!」で聞いたことある人も多いかもしれない。

発音的特徴

1:55 次郎長早っから起き上がって

それほど速い発話でもないのに「早くから」の「く」が飲みこまれて促音になっている 」

2:15 鬨のこい の 「こえ」が「こい」に聞こえる

エ段がかなり狭い?

3:05 まちげえ

首都圏でも形容詞語尾では「あい -> ええ」の音変化はよく聞く。(例えば 高い -> たけえ など) しかし、「まちがい」を「まちげえ」と呼ぶのはあまり聞かない

5:10 開けつくれ 

「開けてくれ」の「て」が「つ」っぽく聞こえる。 (これは現代東京でも起こるという話を聞いたことがある記憶がある?)

5:30 湯へへえりやせんから (湯へ入りませんから)

「あい」->「ええ」 の例。現代首都圏方言ではこの位置は「ええ」にならない

6:10 揃いつくれ (揃えてくれ)

「え」が狭い例

6:40 「湯へへえんなかった」 の「か」が「ɣa」っぽい

7:00 そこイ座れ

「え」が狭いせいか、助詞の「へ」と「に」のmergerなのか、この位置の助詞を「イ」で取るのがよく聞かれる。

7:30 いっぺえ (一杯)

「あい -> ええ」の例

7:45 なめえ (名前)

「あい →ええ」

8:05 んまれついて (生まれついて)

この位置の「う」が「ん」で発音されることは昔はよくあったようだ。

昭和19年発行の「文部省制定発音符号」の六ページには以下の記載がある。

語頭の鼻音音節を表はすには、... 例 うまれる 生れる うま 馬 うまい 甘い  うめ 梅

dl.ndl.go.jp

8:25 よろしくおしきたて (よろしくおひきたて)

「ヒ」-> 「シ」

8:35 清水湊イ来て (清水湊に来て)

助詞の「イ」

9:10 あすんで 「遊んで」

9:10 こづけえ 「小遣い」

「あい」 -> 「ええ」

9:40  みるてえと 

この言い回しは現代首都圏人は使わなそう。 「見るやいなや」とかで置き換えられたのか?現代側で普段何と言っているかがいまいち思い出せない。

9:50 けえれ

「あい」-> 「ええ」

「あえ」->「ええ」だった...

僕が「あい」「あえ」のmergerを持つ話者なので、共通語に引き戻す先をうっかり間違えてしまった...

おわりに

浪曲は芸能なので、必ずしも一般市民の語り口調をそのまま反映しているわけではない。語られている対象も今回は江戸時代の博徒たちだったので、言葉遣いも独特だったかもしれない。 しかし、それを差っ引いても非現代東京方言・非現代共通語的な特徴を実際に耳で聞けたことは面白い

オレオレニューエクスプレス足利両毛弁

概要

ニューエクスプレスという会話スキットベースの語学教科書があり、そのシリーズを私は結構持っている。 その形式を真似して、私の持っている知識で足利(+桐生)両毛弁の例文集を書いてみた。 良いシーンが思いつかなかったので、僕の経験した理系大学生の学生生活が全部足利両毛弁であったらどうなるかを想像してみた。

免責事項

  • これは理系ノリの大学生活をコテコテの足利両毛弁で送ったらどうなるかを想像したものであり、現代足利の大学生はもっとはるかに共通語よりの言葉を喋っていると思う。(でも五・六十年前とかに今の大学生のうちゆるいノリの連中が足利にいたらこんな感じで喋ってそうっていうのは同意してもらえそう?)つまり、これは「もし現代の理系大学生が仲間内でコテコテの足利弁を喋っていたら」という現実ではありえなさそうな仮定の話だ。仮に現実離れしていても許してほしい。
  • 数学はエアプ勢なので言ってることは適当だ。

スキット

第一章「入学式だいね」

会話

A「はじめまして」

B「はじめまして」

A「あんたもこの大学入るんかい?俺もなん!よろしく!」

B「よろしく!まーず人が多いんね。」

A「ね。あれなんね、もっと気難しんべえいるんかと思ってたら結構サクげな人もいるんね。」

B「な。大学ってもっとおっかねんかと思ってたん。」

解説

表現 翻訳 解説
~だいね だね
~んかい? ~の(か)?
~なん
まーず とても
んね
なんね だよね
難しん 難しいの 助詞の「の」は「ん」になりがち、さらに 「ん」の前の長母音は短くなりがち
べえ ばかり ばい、ばり ともいうらしい
サクい 気さくだ
~げだ ~そうだ
おっかねん 怖い
思ってたん 思ってた 肯定の語尾に「ん」が付きがち。

和訳

「入学式だね」

A「はじめまして」

B「はじめまして」

A「あなたもこの大学入るの?俺もだ!よろしく!」

B「よろしく!とても人が多いね。」

A「ね。あれだよね、もっと気難しいのばかりいるのかと思ってたら結構気さくそうな人もいるね。」

B「な。大学ってもっと怖いのかと思ってた。」

第二章「固有値もっかい見な」

会話

A「この本のここの証明何言ってんだかわかんねん。」

B「んーと、あーこらあれだがね、ただの線形代数だがね」

A「あ~まーず頭が弱くてやんなっちゃんね。この変形どうしてこうなるん?」

B「ここにこの変数があるがね、これを左辺に持ってきてこうにやればうまくいくんさ。」

A「はー賢いんな。誰がこれ考えたん?」

B「誰だんべな。大昔の偉い人だんべな。」

解説

表現 翻訳 解説
わかんねん わからない わかんない+語末の「ん」 -> わかんないん -> わかんねーん -> わかんねん
こら これは
だがね でしょう 強く言うときの語尾や、あるでしょう?と連続する文の途中で確認するときの語尾
なっちゃん なってしまうね なっちゃう+んね -> なっちゃうんね -> なっちゃん
こうに こう
んさ んだよ
だんべ だろう

和訳

固有値をもう一回見な」

A「この本のここの証明が何言ってるんだかわからない。」

B「ん-と、あーこれはあれだよ、ただの線形代数だよ」

A「あ~本当に頭が弱くて嫌になってしまうね。この変形はどうしてこうなるの?」

B「ここにこの変数があるでしょう、これを左辺に持ってきてこうやればうまくいくんだよ。」

A「はー賢いな。誰がこれを考えたの?」

B「誰だろうな。大昔の偉い人だろうな。」

第三章「生きるんもよいじゃねんね」

会話

A「この論文もう読んだかい」

B「まだ読んでねん。でも面白そうなんね」

A「それがね、読むんに苦労してるん。ここの命題が示せねえで4日無駄にしたん。教員に聞いても「わかんねんなー」り言うべえで全ッ然頼りになんねんさ。」

C「それあれだで、その論文大事なところ書き違ってるんさ。ここほんとはこうだで。」

B「そうなん!?頭にきちゃんね。何日溶かしたと思ってるん!これじゃ解けるわけなかんべに!」

解説

表現 翻訳 解説
よいじゃねんね 大変だね よいじゃない + んね
ねん ない ない+文末の「ん」 -> ねーん -> ねん
って 擬態語、擬音語の後についたり、引用する文の後についたりする
なんねんさ ならないんだよ
だで だよ
なかんべに ないじゃん!ないでしょう! 「ない」+推量「べ」 の「なかんべ」に、非難の意味の「に」がついた形

翻訳

「生きるのも大変だね」

A「この論文もう読んだか?」

B「まだ読んでない。でも面白そうだね」

A「それがね、読むのに苦労してる。ここの命題が示せなくて4日無駄にした。教員に聞いても「わからないな」って言うばかりで全然頼りにならないんだよ。」

C「それあれだよ、その論文大事なところ書き違ってるんだよ。ここほんとはこうだよ。」

B「そうなの!?頭にきちゃうね。何日溶かしたと思ってるんだ!これじゃ解けるわけないじゃん!」

第四章「遊び行ぎたかねえかい」

会話

A「草津ってあるがね」

B「おう」

A「温泉地だがね」

B「あーね」

A「電車で2~3時間ぐれえだがね」

B「なんだい、バカにしてるんかい。そんぐれ知ってら!」

A「パンフレット配ってたんだけどさ、その写真がん-とよかったん!ほれ見てみなね」

B「ほんとだ!すげんな!湯畑キラッキラだいね」

A「次の冬一緒にいがねえかい?」

B「行くべな行くべな!そしたらお金貯めねえとなんねんな。」

解説

表現 翻訳 解説
遊びいぎたかないかい 遊びに行きたくないか? ここの「に」は省略されがち
あーね そうだね
ぐれえ ぐらい
だい だよ
知ってら 知ってるよ
ん-と とても
見なね 見なよ
いがねえ いかない 行く は「いぐ」になりがち
行くべな 行こうよ

和訳

「遊びに行きたくないか?」

A「草津ってあるじゃんか」

B「おう」

A「温泉地じゃんか」

B「そうだね」

A「電車で2~3時間ぐらいじゃんか」

B「なんだよ、バカにしてるんのか。それぐらい知ってるよ!」

A「パンフレット配ってたんだけどさ、その写真がとてもよかったんだよ!ほら見てみなよ」

B「ほんとだ!すごいな!湯畑がキラキラだね」

A「次の冬一緒にいかない?」

B「行こうよ行こうよ!そしたらお金貯めないとならないな。」

第五章「こら当番!」

会話

A「こないだのゼミははかいったんね」

B「半日であすこまで行ったんすごいよ」

A「ところで途中が結構はしょってあったんじゃないかい?」

B「そうなん。途中計算わかんねえからすっとばしたん」

解説

表現 翻訳 解説
はかいく はかどる
あすこ あそこ

翻訳

「こら当番!」

A「このあいだのゼミは捗ったね」

B「半日であそこまで行ったのはすごいよ」

A「ところで途中が結構はしょってあったんじゃない?」

B「そうなんだよ。途中計算がわからないからすっとばした。」

第六章「バイトどうだい」

会話

A「バイト何やってるん?」

B「塾講やってるん!きかねんがいて大変だけど、でも割と張り合いがあって楽しんさ」

A「いいがね!俺なんか仕事がしんどくて苦労してるん」

B「どんなんなん?」

A「プログラミングのバイトしてるんさ。でもなっかなかバグが取れねえでいくんちも進んでねん。」

B「だめだろにそれじゃ。そらやだいね」

A「金稼ぐってなよいじゃねんね、まーずね...」

解説

表現 翻訳 解説
きかねん いうことを聞かないの
いくんち 何日
だめだろに だめでしょうに 非難の「に」
よいじゃねんね 大変だね よいじゃない + んね
まーず 本当に

和訳

「バイトはどうだ?」

A「バイト何やってるの?」

B「塾講やってるの!言うことを聞かない子がいて大変だけど、でも割と張り合いがあって楽しいんだよ」

A「いいじゃん!俺なんか仕事がしんどくて苦労してる」

B「どんなのなの?」

A「プログラミングのバイトしてるんだよ。でもなっかなかバグが取れなくて何日も進んでない。」

B「だめじゃんかそれじゃ。それは嫌だね」

A「金を稼ぐというのは大変だね、本当にね...」

第七章「理系向いてねんかな」

会話

A「この式はこう書き換いらいっからこれが導けるんさ。証明おしまい!」

B「待って、なんでそうなるん?」

A「群が可換なんだから見た通りだがね」

B「その群は本当に可換なんかい?」

A「ここの部分見ると、素数pつんがあって位数がp2だがね」

B「あ~たしかにそうだいね、間違いねえや。まーず数学はわかんねえでやんなっちゃんな。なーんで理系に進んじゃったんだんべな」

解説

表現 翻訳 解説
書き換いらいっから 書き換えられるから られるは「らいる」になりがち
つん というの
だんべな だろうな

翻訳

「理系向いてないのかな」

A「この式はこう書き換えられるからこれが導けるんだよ。証明おしまい!」

B「待って、なんでそうなるの?」

A「群が可換なんだから見た通りじゃん」

B「その群は本当に可換なのか?」

A「ここの部分見ると、素数pというのがあって位数がp2じゃん」

B「あ~たしかにそうだね、間違いないや。本当に数学はわからなくて嫌になっちゃうな。なんで理系に進んじゃったんだろうな」

第八章「hんとに」

会話

A「聞いとくれよ!昨日越谷のレイクタウン行ったんだけど歌手のOOさんいたん!」

B「hんとに!本物見れたんいんね!ずっとファンだけど全然ライブとか行けてねん」

A「それがね、テレビで見るよりん~と声がでっかくてね、あー歌手っつんはこんなに声量があるんだな、うるさいぐらいに大きいんなって思ったん」

B「はーそうなん?一遍聞いてみたかったな?」

解説

表現 翻訳 解説
とくれ てくれ
hんとに 本当に /n̊nto\ni/

翻訳

「本当?」

A「聞いてくれよ!昨日越谷のレイクタウン行ったんだけど歌手のOOさんいた!」

B「本当?本物を見れたのはいいね!ずっとファンだけど全然ライブとか行けてない」

A「それがね、テレビで見るよりとても声が大きくてね、あー歌手っていうのはこんなに声量があるんだな、うるさいぐらいに大きいんだなって思った」

B「はーそうなの?一遍聞いてみたかったな?」

第九章「どうしても難しいやつ」

会話

A「こないだ初等整数論の当たり前な定理が思い出せなくって恥かいたん」

B「ながいことやってねえとどうしても思い出すんもよいじゃねえやね」

A「群論で証明やるようになっちゃうと初等整数論の勘が鈍っちゃーやね」

B「いつだって人が覚えてる証明技法は有限個っかねえからね」

A「そのいくつかの証明技法も覚えてらいねん」

解説

表現 翻訳 解説
らいねん られない+文末「ん」

翻訳

「どうしても難しいやつ」

A「この間初等整数論の当たり前な定理が思い出せなくって恥をかいた」

B「長い間やってないとどうしても思い出すのも大変だよね」

A「群論で証明やるようになっちゃうと初等整数論の勘が鈍っちゃうよね」

B「いつだって人が覚えてる証明技法は有限個しかないからね」

A「そのいくつかの証明技法も覚えてられないんだよ」

まとめ

もし現代の理系が大学生が昔からのコテコテの足利弁を喋っていたら、という現実離れした設定でスキットを書いてみた。足利両毛辺りの言葉の参考になったら幸いだ。 それにしてもこの方言、いろんな箇所が縮約したり「ん」につぶれていたりして短くなっている代わりに語尾に色々ついてるな... これっちんべっか書けねんだ足利の人に笑われちゃんね...

東京方言のおそ下がりをPraatで観察した

概要

東京方言話者の単語音声におけるおそ下がりの生起条件の調査 北村 達也・天川 雄太・波多野博顕**

によると、基本周波数の下がり目がアクセント核の次の音節の中にくる現象があるらしい。 これが実際どこら辺にくるのか、自分含め 友人たちの発話を聞いて分析してみた。

測定基準

音程の下がり始めがどのくらいオーバーしているかを測定したい。 ここでは「遅下がり度」を(「アクセント核の次の音節核の中でピッチが下降を始めるまでの時間」/「アクセント核の次の音節全体の長さ」%)と定義する。

方法

Praat というアプリで分析する。このアプリは発話音声を入力すると波形とスペクトログラムを出力してくれるツールだ。 音声を聞いたりスペクトログラムを見ながら、以下の語彙について、私が必要な区間の時間的長さを測定し、遅下がり度を測定する。

「努力」のpraatにおけるannotation

語彙リスト

  • 努力
  • 始末
  • とにかく
  • 文学
  • 粗末

発話を自然環境に近づけるため、以下のフレーズで読み上げを行った。

  • 努力しなくちゃ
  • 始末しなくちゃ
  • とにかくやんなきゃ
  • 文学読まなきゃ
  • 粗末にしちゃ

読み上げは3回行い平均を取った。

実験参加者

僕の知人から協力者を集め、近畿中央部の A 氏、近畿最西端部のB氏、北関東の私の3人で実験を行った。共通語を話しているつもりで発話するようにという条件のもとに録音した。

遅下がり度の結果

単語 A氏 B氏 3人の平均
努力 11.2% 35.5% 48.9% 31.9%
文学 23.7% 48.4% 58.7% 43.6%
粗末 28.3% 25.9% 88.6% 47.6%
とにかく 41.8% 53.1% 60.3% 51.7%
始末 63.2% 34.1% 82.4% 59.9%
話者の平均 33.6% 39.4% 67.8% 46.9%

漠然と思ったこと

思ったより遅下がりしている

どの人のどの単語も、3回平均が正の値を取っている。 特に私の「粗末」はアクセント核の次の音節の88.6% も過ぎてからやっと下降を始めているらしい。

近畿中央部から離れれば離れた話者ほど遅下がりが強い傾向にある?

A氏は近畿中央、B氏は近畿外延部、私は関東出身だ。この昇順に遅下がりの度合いが大きくなっていっている。

もっと周縁部によればよるほど遅下がりが強くなっていたらこの傾向があるかどうか検討してみる価値が上がりそうだ。 試しに、東京の人と話しているときのつもりの録音と、東京よりさらに近畿から東北方面に近い北関東の親戚(ギリギリ東京式アクセントとされている地域で、無アクセント地域と隣接している)と話しているときの気持ちで録音し、聞き比べてみた。

東京っぽい気持ちのとき

北関東っぽい気持ちのとき

比較結果の感想

やはり北関東の時の方が遅下がりの度合いが大きい気がする。気になる。 とはいえ、さすがに3人だけの調査じゃ何も確定的なことを言いようがない。

「とにかく」の遅下がり度が比較的高い?

東京方言話者の単語音声におけるおそ下がりの生起条件の調査 北村 達也・天川 雄太・波多野博顕** アブストにある、語に含まれるモーラ数が多いほど遅下がりが現れやすいという話と同じ方向を向いていそう。

私の発話で「粗末」「始末」の遅下がり度が高い

首都圏方言では以下の条件で音節の無声化が起こるとされている。

  • 無声子音から始まり
  • 狭母音で
  • 次の音節が無声子音で始まる

「始末」はこの条件を部分的に満たしているので、無声化が起こる環境に近い環境であるかと思われる。 さらに、古い東京方言では、アクセント核が無声化すると、アクセントが後ろにずれることがあると言われている。(出典を見つけられない...)

ここら辺が作用してるのかな...わからないな...

まとめ

アクセントの音程のピークはたしかにアクセント核の中じゃないことがあった。 実際に耳で聞いた感じと、分析して確認したピークの位置は割とずれることがある。

special thanks

調査に協力してくれた @SY, @Мороже両名氏に感謝!

両毛・足利方言の「してん」の衝突

「してん」が出てくる会話例

次の会話を読んでほしい。

A 「最近体力落ちちゃってどうしょもねんね」

B「そうなんね。俺も運動してんだけどね」

ここであなたに質問である。B氏には運動習慣があるだろうか、ないだろうか? 実は両毛地域(栃木南東部+群馬南西部)では、この会話は全く違った2種類の読みが可能である。

両毛における音変化

首都圏口語にもある音変化

首都圏口語には様々な音変化の規則がある。 たとえば、

1: 形容詞語尾の「ai」が「ee」になる

  • 「高い」→「たけえ」
  • 「強い」→「つええ」

2: 助詞の「の」が一部「ん」になる

  • 「書くのなら」→「書くんなら」
  • 「家の中」→「家ん中」

両毛独自の音変化

これに加えて、両毛だと次の縮約も起こりうる

3: 「(伸ばす音)+ん」→「ん」*1

これら3つの音変化の結果、両毛地区では以下のような形が現れることがある。

例:

  • 「ないの?」→(ルール1)「ねえの?」(ルール2)→「ねえん?」(ルール3)→「ねん?」

相田みつをの詩*2でも、次のように「ねん」が出てくる。

花を支える枝 枝を支える幹 幹を支える根 根は見えねんだなあ

さらに、「読みたい」「書きたい」の「たい」についても、以下の変化を起こしうる。

  • 「たいの」→(ルール1)「てえの」(ルール2)→「てえん」(ルール3)→「てん」

以下はおーはしるい先生が連載している「あい・ターン*3」4巻の4ページ、5ページから抜粋してきたコマである。

こちらのコマは「アイドルになりたいのに」が「アイドルになりてんに」になっている。

こちらのコマでは「焼き捨ててやりたい(の)ね」が「焼き捨ててやりてんね」になっている。

会話例の共通語訳

これを踏まえた上で、くだんの会話を見てみよう。

A 「最近体力落ちちゃってどうしょもねんね

は「最近体力が落ちてしまってどうしようもない(の)ね」である。

次に

B「そうなんね。俺も運動してんだけどね」

を見てみよう。 「そうなんね。」は「そうなのね」の音変化であり、「そうだね」くらいの意味で使われる。

一方、「俺も運動してんだけどね」は2通りの解釈がある。

解釈一つ目は、共通語と同様の「俺も運動して(いる)のだけどね」だ。「運動しているのだけれど、中々体力が増さないね」と続くような会話だ。

解釈二つ目は「俺も運動したいのだけどね」だ。「運動したいのだけれど、実際は行動に及んでいない」と続く。

運動をもうしているのか、まだしていないのか、意味が全く異なってしまう。読者の皆さんは二つの可能性に気づけただろうか?

まだ一人暮らししていない人に対する「ひとり暮らししてんだろけど。」ここでは「したいのだろうけど」の意。「あい・ターン」4巻5ページ。

「-てん」が被る例と被らない例

サ変動詞では「~たい」と「~ている」が「~てん」の形で衝突しうることは確認した。 では他の種類の動詞ではどうだろうか。活用の種類によって被るものと被らないものがある。

活用表を見ながら確認していく。

カ変動詞

動詞 ~しているのだ ~したいのだ 備考
来る き\てんだ きて\んだ アクセントが違う

アクセント違いにより被らない。

五段動詞

動詞 ~しているの ~したいの 備考
会う 会ってんだ 会いてんだ
聞く 聞いてんだ 聞きてんだ
行く 行ってんだ 行きてんだ
嗅ぐ 嗅いでんだ 嗅ぎてんだ
指す 指\してんだ 指して\んだ アクセントが違う
殺す 殺して\んだ 殺して\んだ 被り
立つ 立ってんだ 立ちてんだ
死ぬ 死んでんだ 死にてんだ
呼ぶ 呼んでんだ 呼びてんだ
噛む 噛んでんだ 噛みてんだ
取る 取ってんだ 取りてんだ

サ行五段以外は被らない。

一段動詞

動詞 ~しているの ~したいの 備考
見る 見\てんだ 見て\んだ  アクセント違い
煮る 煮て\んだ 煮て\んだ 被り

アクセントによっては被らないが、基本被る。

まとめ

足利をはじめとする両毛地域では、東京とは違った音変化の法則を持っており、そのせいで全く違った文末表現が同じ形になってしまいうる。 他の地域のこういう現象も気になるので、どういう現象が起こるのか、そこから生じる不便をどう回避しているのかなどを聞いてみたい。

*1:super heavyな音節を避けているんだろうか?

*2:栃木県南西部の足利市出身である

*3:恐らく群馬県南東部の渡良瀬川上流部沿いの集落あたりを舞台に設定している

カエルの王子様【両毛弁訳】

昔さ、みんなの願い事が叶ってたころに、王様がいてさ、 その王様の娘さんがみんな美人で、そんなかでも末っ子がんーときれいだったん。だから、ほら、お天道様っていろいろ見てきてるがね、 見てきてるってのにその子のこと照らしたときにお天道様が毎回驚くぐれだったん。 その王様が住んでたお城のすぐ近くにさ、大きくて暗い森があったんさ、その森ん中に古いライムの木が生えてるとこがあって、その下に泉が沸いてたん。 あったけえ日には末っ子さんは森に出かけてって、その泉のそばが涼しいからってそこい座って、 飽きてくると金の玉ぁ取り出して、ポーンりたけえことほんなげて手で捕まえて遊んでたん で、それが遊び道具によかったみたいで、末っ子はこの玉のこと気に入ってたんだと。 いつだったか、末っ子が金の玉ほんなげて、手ぇ伸ばしてつかまえようとしてたんだけど、そこいうまいこと落ちてこねえで遠くの地面に落っこちて、池ん中転がってっちゃったん。 目で追っかけてったんだけど、最後にはどっかいっちゃったんね。そこの泉がえーれえ深くって、泉の底が見えねえぐれえだったん。んだから末っ子さんは泣き出しちゃって、どんどん大きい声で泣いてたんだけど、それでも気が済まなかったみて こんなふうに悲しんでたら、誰かわからないんがきて 「おひめさん、どうして泣いてるん。そこいらの石だってあんたのことかわいそうに思うんじゃねえかってぐれ泣いてるでー」り言ってきたん。 その声の聞こえてきた方向いたら、大きくてブサイクな蛙が水から頭出してるんが見えたん。 そしたら末っ子さんは「あら蛙さん、あんただったんかい。あたしゃあね、金の玉なくしちゃって泣いてるんさ。泉ん中落っことしちゃったん」つったんね 蛙がそれに答えてさ、「静かにしなな、泣きやみなね。俺が助けてやっから。だけど、仮にだけど、俺があんたのおもちゃ持ってきたら何くれんだい?」って。 「何でもやるよ、およふくとか真珠とか、宝石とか、今かぶってる金の冠もあげっから。」って答えたん。 そしたら驚いちゃんね、その蛙が「およふくだの真珠だの宝石だのは要らねん。金でできた冠も要らねんだけど、だけど俺のこと好いてくれて、そばで遊び相手んなって、 ごはんどきそばに座ってあんたの金のお皿からごはん食べるとか、あんたの湯呑み使うとか、あんたの布団で眠るとか、 そうゆん許してくれるっつんだら池ぇ潜って金の玉取ってきてやるで」ーり言いやがったん。

グリム兄弟 Bruder Grimm 楠山正雄訳 かえるの王さま DER FROSCHKONIG ODER DER EISERNE HEINRICH の両毛訳