概要
ニューエクスプレスという会話スキットベースの語学教科書があり、そのシリーズを私は結構持っている。
その形式を真似して、私の持っている知識で足利(+桐生)両毛弁の例文集を書いてみた。
良いシーンが思いつかなかったので、僕の経験した理系大学生の学生生活が全部足利両毛弁であったらどうなるかを想像してみた。
免責事項
- これは理系ノリの大学生活をコテコテの足利両毛弁で送ったらどうなるかを想像したものであり、現代足利の大学生はもっとはるかに共通語よりの言葉を喋っていると思う。(でも五・六十年前とかに今の大学生のうちゆるいノリの連中が足利にいたらこんな感じで喋ってそうっていうのは同意してもらえそう?)つまり、これは「もし現代の理系大学生が仲間内でコテコテの足利弁を喋っていたら」という現実ではありえなさそうな仮定の話だ。仮に現実離れしていても許してほしい。
- 数学はエアプ勢なので言ってることは適当だ。
スキット
第一章「入学式だいね」
会話
A「はじめまして」
B「はじめまして」
A「あんたもこの大学入るんかい?俺もなん!よろしく!」
B「よろしく!まーず人が多いんね。」
A「ね。あれなんね、もっと気難しんべえいるんかと思ってたら結構サクげな人もいるんね。」
B「な。大学ってもっとおっかねんかと思ってたん。」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
~だいね |
だね |
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~んかい? |
~の(か)? |
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~なん |
だ |
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まーず |
とても |
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んね |
ね |
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なんね |
だよね |
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難しん |
難しいの |
助詞の「の」は「ん」になりがち、さらに 「ん」の前の長母音は短くなりがち |
べえ |
ばかり |
ばい、ばり ともいうらしい |
サクい |
気さくだ |
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~げだ |
~そうだ |
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おっかねん |
怖い |
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思ってたん |
思ってた |
肯定の語尾に「ん」が付きがち。 |
和訳
「入学式だね」
A「はじめまして」
B「はじめまして」
A「あなたもこの大学入るの?俺もだ!よろしく!」
B「よろしく!とても人が多いね。」
A「ね。あれだよね、もっと気難しいのばかりいるのかと思ってたら結構気さくそうな人もいるね。」
B「な。大学ってもっと怖いのかと思ってた。」
第二章「固有値もっかい見な」
会話
A「この本のここの証明何言ってんだかわかんねん。」
B「んーと、あーこらあれだがね、ただの線形代数だがね」
A「あ~まーず頭が弱くてやんなっちゃんね。この変形どうしてこうなるん?」
B「ここにこの変数があるがね、これを左辺に持ってきてこうにやればうまくいくんさ。」
A「はー賢いんな。誰がこれ考えたん?」
B「誰だんべな。大昔の偉い人だんべな。」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
わかんねん |
わからない |
わかんない+語末の「ん」 -> わかんないん -> わかんねーん -> わかんねん |
こら |
これは |
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だがね |
でしょう |
強く言うときの語尾や、あるでしょう?と連続する文の途中で確認するときの語尾 |
なっちゃんね |
なってしまうね |
なっちゃう+んね -> なっちゃうんね -> なっちゃんね |
こうに |
こう |
|
んさ |
んだよ |
|
だんべ |
だろう |
|
和訳
「固有値をもう一回見な」
A「この本のここの証明が何言ってるんだかわからない。」
B「ん-と、あーこれはあれだよ、ただの線形代数だよ」
A「あ~本当に頭が弱くて嫌になってしまうね。この変形はどうしてこうなるの?」
B「ここにこの変数があるでしょう、これを左辺に持ってきてこうやればうまくいくんだよ。」
A「はー賢いな。誰がこれを考えたの?」
B「誰だろうな。大昔の偉い人だろうな。」
第三章「生きるんもよいじゃねんね」
会話
A「この論文もう読んだかい」
B「まだ読んでねん。でも面白そうなんね」
A「それがね、読むんに苦労してるん。ここの命題が示せねえで4日無駄にしたん。教員に聞いても「わかんねんなー」り言うべえで全ッ然頼りになんねんさ。」
C「それあれだで、その論文大事なところ書き違ってるんさ。ここほんとはこうだで。」
B「そうなん!?頭にきちゃんね。何日溶かしたと思ってるん!これじゃ解けるわけなかんべに!」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
よいじゃねんね |
大変だね |
よいじゃない + んね |
ねん |
ない |
ない+文末の「ん」 -> ねーん -> ねん |
り |
って |
擬態語、擬音語の後についたり、引用する文の後についたりする |
なんねんさ |
ならないんだよ |
|
だで |
だよ |
|
なかんべに |
ないじゃん!ないでしょう! |
「ない」+推量「べ」 の「なかんべ」に、非難の意味の「に」がついた形 |
翻訳
「生きるのも大変だね」
A「この論文もう読んだか?」
B「まだ読んでない。でも面白そうだね」
A「それがね、読むのに苦労してる。ここの命題が示せなくて4日無駄にした。教員に聞いても「わからないな」って言うばかりで全然頼りにならないんだよ。」
C「それあれだよ、その論文大事なところ書き違ってるんだよ。ここほんとはこうだよ。」
B「そうなの!?頭にきちゃうね。何日溶かしたと思ってるんだ!これじゃ解けるわけないじゃん!」
第四章「遊び行ぎたかねえかい」
会話
A「草津ってあるがね」
B「おう」
A「温泉地だがね」
B「あーね」
A「電車で2~3時間ぐれえだがね」
B「なんだい、バカにしてるんかい。そんぐれ知ってら!」
A「パンフレット配ってたんだけどさ、その写真がん-とよかったん!ほれ見てみなね」
B「ほんとだ!すげんな!湯畑キラッキラだいね」
A「次の冬一緒にいがねえかい?」
B「行くべな行くべな!そしたらお金貯めねえとなんねんな。」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
遊びいぎたかないかい |
遊びに行きたくないか? |
ここの「に」は省略されがち |
あーね |
そうだね |
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ぐれえ |
ぐらい |
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だい |
だよ |
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知ってら |
知ってるよ |
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ん-と |
とても |
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見なね |
見なよ |
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いがねえ |
いかない |
行く は「いぐ」になりがち |
行くべな |
行こうよ |
|
和訳
「遊びに行きたくないか?」
A「草津ってあるじゃんか」
B「おう」
A「温泉地じゃんか」
B「そうだね」
A「電車で2~3時間ぐらいじゃんか」
B「なんだよ、バカにしてるんのか。それぐらい知ってるよ!」
A「パンフレット配ってたんだけどさ、その写真がとてもよかったんだよ!ほら見てみなよ」
B「ほんとだ!すごいな!湯畑がキラキラだね」
A「次の冬一緒にいかない?」
B「行こうよ行こうよ!そしたらお金貯めないとならないな。」
第五章「こら当番!」
会話
A「こないだのゼミははかいったんね」
B「半日であすこまで行ったんすごいよ」
A「ところで途中が結構はしょってあったんじゃないかい?」
B「そうなん。途中計算わかんねえからすっとばしたん」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
はかいく |
はかどる |
|
あすこ |
あそこ |
|
翻訳
「こら当番!」
A「このあいだのゼミは捗ったね」
B「半日であそこまで行ったのはすごいよ」
A「ところで途中が結構はしょってあったんじゃない?」
B「そうなんだよ。途中計算がわからないからすっとばした。」
第六章「バイトどうだい」
会話
A「バイト何やってるん?」
B「塾講やってるん!きかねんがいて大変だけど、でも割と張り合いがあって楽しんさ」
A「いいがね!俺なんか仕事がしんどくて苦労してるん」
B「どんなんなん?」
A「プログラミングのバイトしてるんさ。でもなっかなかバグが取れねえでいくんちも進んでねん。」
B「だめだろにそれじゃ。そらやだいね」
A「金稼ぐってなよいじゃねんね、まーずね...」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
きかねん |
いうことを聞かないの |
|
いくんち |
何日 |
|
だめだろに |
だめでしょうに |
非難の「に」 |
よいじゃねんね |
大変だね |
よいじゃない + んね |
まーず |
本当に |
|
和訳
「バイトはどうだ?」
A「バイト何やってるの?」
B「塾講やってるの!言うことを聞かない子がいて大変だけど、でも割と張り合いがあって楽しいんだよ」
A「いいじゃん!俺なんか仕事がしんどくて苦労してる」
B「どんなのなの?」
A「プログラミングのバイトしてるんだよ。でもなっかなかバグが取れなくて何日も進んでない。」
B「だめじゃんかそれじゃ。それは嫌だね」
A「金を稼ぐというのは大変だね、本当にね...」
第七章「理系向いてねんかな」
会話
A「この式はこう書き換いらいっからこれが導けるんさ。証明おしまい!」
B「待って、なんでそうなるん?」
A「群が可換なんだから見た通りだがね」
B「その群は本当に可換なんかい?」
A「ここの部分見ると、素数pつんがあって位数がp2だがね」
B「あ~たしかにそうだいね、間違いねえや。まーず数学はわかんねえでやんなっちゃんな。なーんで理系に進んじゃったんだんべな」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
書き換いらいっから |
書き換えられるから |
られるは「らいる」になりがち |
つん |
というの |
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だんべな |
だろうな |
|
翻訳
「理系向いてないのかな」
A「この式はこう書き換えられるからこれが導けるんだよ。証明おしまい!」
B「待って、なんでそうなるの?」
A「群が可換なんだから見た通りじゃん」
B「その群は本当に可換なのか?」
A「ここの部分見ると、素数pというのがあって位数がp2じゃん」
B「あ~たしかにそうだね、間違いないや。本当に数学はわからなくて嫌になっちゃうな。なんで理系に進んじゃったんだろうな」
第八章「hんとに」
会話
A「聞いとくれよ!昨日越谷のレイクタウン行ったんだけど歌手のOOさんいたん!」
B「hんとに!本物見れたんいんね!ずっとファンだけど全然ライブとか行けてねん」
A「それがね、テレビで見るよりん~と声がでっかくてね、あー歌手っつんはこんなに声量があるんだな、うるさいぐらいに大きいんなって思ったん」
B「はーそうなん?一遍聞いてみたかったな?」
解説
表現 |
翻訳 |
解説 |
とくれ |
てくれ |
|
hんとに |
本当に |
/n̊nto\ni/ |
翻訳
「本当?」
A「聞いてくれよ!昨日越谷のレイクタウン行ったんだけど歌手のOOさんいた!」
B「本当?本物を見れたのはいいね!ずっとファンだけど全然ライブとか行けてない」
A「それがね、テレビで見るよりとても声が大きくてね、あー歌手っていうのはこんなに声量があるんだな、うるさいぐらいに大きいんだなって思った」
B「はーそうなの?一遍聞いてみたかったな?」
第九章「どうしても難しいやつ」
会話
A「こないだ初等整数論の当たり前な定理が思い出せなくって恥かいたん」
B「ながいことやってねえとどうしても思い出すんもよいじゃねえやね」
A「群論で証明やるようになっちゃうと初等整数論の勘が鈍っちゃーやね」
B「いつだって人が覚えてる証明技法は有限個っかねえからね」
A「そのいくつかの証明技法も覚えてらいねん」
解説
翻訳
「どうしても難しいやつ」
A「この間初等整数論の当たり前な定理が思い出せなくって恥をかいた」
B「長い間やってないとどうしても思い出すのも大変だよね」
A「群論で証明やるようになっちゃうと初等整数論の勘が鈍っちゃうよね」
B「いつだって人が覚えてる証明技法は有限個しかないからね」
A「そのいくつかの証明技法も覚えてられないんだよ」
まとめ
もし現代の理系が大学生が昔からのコテコテの足利弁を喋っていたら、という現実離れした設定でスキットを書いてみた。足利両毛辺りの言葉の参考になったら幸いだ。
それにしてもこの方言、いろんな箇所が縮約したり「ん」につぶれていたりして短くなっている代わりに語尾に色々ついてるな...
これっちんべっか書けねんだ足利の人に笑われちゃんね...